翌朝、目覚めたミホはいつものように窓を開けようとした。そこで窓際に昨日持ち帰った蝶がとまっていることに気づいた。昨夜ミホは寝る前に、暗くした照明の下に蝶を置いて眠ったのだった。ヨシトミさんの話はどうやら正しかったようで、動けるまでに電力が回復したらしい。

昼過ぎにミホは公園に出かけた。自販機でコーヒーを買ってベンチに座った。冬の柔らかな日差しの中で公園で遊ぶ子供達の声が聞こえる。ミホはこの何でもない休日のひと時が好きだった。ただ今日はいつもと違って不思議な蝶が一緒である。ミホが家を出ようとした時に一緒についてきたのだった。そのままどこかに逃げると思ったが、なぜかミホにくっついて一緒に公園までやってきた。蝶はミホの隣で羽を閉じたり広げたりしている。ミホが飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に捨ててベンチに戻ってくると、蝶が飛び始めていた。しかし、そのまま逃げるでもなくベンチの周りをヒラヒラと飛んでいる。まるで、ミホがこっちに来るのを待っているようだった。ミホがそばに寄ると蝶は公園の出口に向かって飛び始めた。ミホは蝶のあとをついていくことにした。

随分と歩いた。蝶のあとをついていくうちに第4工都駅まで来てしまった。この駅から電車に乗ると第4工都の外に出ることになる。ミホは第4工都の外に出たことは今まで2回しかない。蝶はヒラヒラと舞いながら改札を通り抜けた。ミホも切符を買って改札を通り抜ける。駅には第3工都行きの電車が止まっていて、蝶は電車の中に入っていった。ミホも後に続く。蝶は座席のほうに向かい窓枠にとまり、ミホも隣に座る。5分くらいしてから電車が動き始めた。他の都市へ向かう電車に乗るのは5年ぶりくらいだろうか。 1時間ほど電車に揺られ、電車は海岸を走り始めた。しばらくして、
「次は、電脳廟」
というアナウンスが流れると、窓枠にとまっていた蝶が動き始めた。ミホの知らない駅である。蝶のあとについてミホは電車を降りた。小さな駅でミホ以外に降りる乗客はいない。周囲には何もなく荒地が広がっている。北の方角には小さな町があるようだった。ミホは蝶のあとについて、駅を出ると北に向かって歩き始めた。